尿検査で糖が出る場合の対処方法
健康診断や検査の結果通知書の指示事項の欄に、尿に糖が出ていまう、糖尿病の疑いがありますとあったら?どのように対処していけばよいのか解説しています。尿に糖が出ていたり、血糖値が高かったりすれば、糖尿病の疑いがあります。食事で摂った糖質は、ブドウ糖となってエネルギー源として利用されます。特に脳では、ブドウ糖が唯一のエネルギー源となっています。ブドウ糖は大切なものですから、毎日食事をして、血糖を一定のレベル以上に保っていなければ生きていけません。ブドウ糖がエネルギー源として利用されるためには、膵臓で作られるインスリンというホルモンの働きが必要です。インスリンの働きが悪かったり、インスリンの量が少ないと、ブドウ糖が利用できず、血液の中に停滞して血糖値が高くなります。血糖検査は、朝の空腹時に検査するのが基本ですが、ときには、食後1時間、食後2時間などの決まった時間に検査することもあります。緊急時には、食事に関係なく、そのときの血糖値を調べることもあります。糖尿病で病院や診療所に通院しているときには、次回の診察のときには空腹の状態で行くのか、食事をしてもよいのか確かめましょう。
過去の血糖値も推測できる
血糖値は、採血したそのときの血糖しかわかりません。
しかし、グリコヘモグロビン(HbA1またはHbA1c)というものを測定すると、過去1~2ヶ月間の血糖の平均値が推測できます。これは、赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖が結び付いたもので、血糖値が高いほど、結合したヘモグロビンの率が高くなります。
しかし、赤血球は100日程度で次々と壊れ、新しい赤血球が生まれてきますので、血糖値がうまく下がった状態が続くと、グリコヘモグロビンも低下します。グリコヘモグロビンの基準値はHbA1が5~8%、HbA1cが4~6%です。
ブドウ糖負荷テストとは?
糖尿病の疑いがあって、病院や診療所を受診すると、「ブドウ糖負荷テスト」という検査が行われます。この検査は、空腹時に、75gのブドウ糖液をいっきに飲んだ後、一定の時間に、何回か採血して、血糖値を検査するものです。同時に、インスリンなどを検査することもあります。
正常の人では75g程度のブドウ糖をいっきに飲んでも、すぐにインスリンが分泌されて、血糖値は極端には上がりません。しかし糖尿病に人では、これだけのブドウ糖の負荷に十分対応できず、血糖値がかなり上がります。この状態を「耐糖能異常がある」と言います。この検査の結果で、正常型か、境界型、糖尿病型かが診断されます。(表)
糖尿病以外の内分泌疾患(ホルモンの異常によって起こる病気)や肝硬変などの病気があるときには、糖尿病と同じ状態(耐糖能異常)をきたしやすく、血糖値が高く、ブドウ糖負荷テストで、境界型や糖尿病型を示すことが多くなります。
大半は成人病の糖尿病
糖尿病には2つのタイプがあります。
1つは、若いうちに発病することが多い「インスリン依存型糖尿病」で、インスリンがほとんど作られないため、一生、インスリンの注射が必要です。
もう1つは、中高年に発症し、糖尿病患者の大半を占める「インスリン非依存型糖尿病」で、成人型とも言われます。早期に発見し、食事療法や運動療法を確実に行えば、悪化することはありません。しかし、治療せずに放置すれば進行し、薬物療法が必要になり、インスリンの注射が必要になる場合もあります。
いずれの型の糖尿病も、適切に治療をすれば、健康人と同じように生活でき、寿命も変わりません。
糖尿病は初期には無症状
糖尿病になると、「尿量が多い」「のどが渇く」「疲れやすい」などの症状が見られます。しかし、初期には、ほとんど自覚症状はありません。この症状のない初期のうちに発見して、治療をすれば、悪化が防げます。
健康診断で「尿に糖が出ています」とか、「糖尿病の疑いがあります」と言われたら、自覚症状がなくても、直ちに受診して、医師の指示に従いましょう。
糖尿病は合併症が怖い
血糖値が極端に高くなれば、命にかかわりますが、普通は、糖尿病だけではあまり症状が無く、今すぐに命にかかわるということはありません。
しかし、糖尿病には合併症が起こりやすく、この合併症が怖いのです。
神経が障害されて手足がしびれたり、インポテンツをきたす「糖尿病性神経症」、視力障害を起こす「糖尿病性網膜症」、尿毒症になって死を招くことがある「糖尿病性腎症」などの、糖尿病特有の合併症があります。そのほかに、動脈硬化を起こしやすく、脳卒中や心筋梗塞・下肢の血行障害などが、糖尿病のない人に比べて、ずっと多く起こりやすくなります。
糖尿病は症状のないうちが勝負です。
ブドウ糖負荷テストで「境界型」であっても注意が必要
「境界型」は、糖尿病の前段階で、将来、糖尿病になる可能性があります。しかし、この段階で、食事療法や運動療法を始めれば、糖尿病になるのを防げます。
糖尿病の治療は食事療法と運動療法が基本
「糖尿病の食事療法」
正常者では、食事としてからだに入ってきた糖質の量に応じてうまく反応して、ブドウ糖をエネルギー源として利用したり、グリコーゲンに変えて貯蔵したりしています。
糖尿病の人は、このブドウ糖の処理能力が低下していますので、処理能力の範囲内に食事の量を制限しなければならないのです。
糖尿病の食事療法には2つの原則があります。
1つは、食事の全体量(エネルギー量)を制限することです。その食事量は、あなたの身長とバランスのとれた体重(標準体重)と、あなたの毎日の運動量とから計算されます。
軽い労働の人は、1日に標準体重で1kg当り25~30Kcalが基準です。例えば、身長170cmの事務職の人では、1590~1905Kcalとなります。
2つめは、食事のバランスをよくすることです。糖尿病だからといって、単に甘い物を制限すればようだけではありません。
糖質・蛋白質・脂質のバランスをとり、さらに、ビタミンとミネラル(カルシウム・鉄など)も、適正に摂らなければなりません。
糖尿病の食事療法は、一生続けなければなりません。一時的に食事制限をして、尿糖が出なくなったり、血糖値が正常化しても、糖尿病が治ったわけではありません。食事を増やせば元に戻ってしまいます。
糖尿病の食事療法は、初めは医師・保健婦・看護師などの指導を受け、正しく始めてください。
しかし、大切なことは、自分でも勉強をして、正しい食事療法のやり方を身に付けることです。家族の人にも協力してもらいましょう。
「糖尿病の運動療法」
運動療法の目的(効果)は、たくさんあります。
まず、第一に、すでに余分にたまっていたり、毎日食事で入ってくる栄養分を、運動することによって、消費することです。これによって、肥満の解消・予防に役立ちます。
第二に、運動をすることによって、インスリンの働きがよくなり、血糖値が下がります。
そのほか、血液循環をよくし、心臓の機能を高め、血圧を下げ、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)を下げるなどにより、糖尿病に伴いやすい動脈硬化を防止することも、大きな効果の1つです。
糖尿病の運動療法と言っても、特殊なことをするわけではありません。健康を維持し、増進するために、誰もが毎日行うべき運動が基本です。したがって、特別なスポーツやトレーニングではなく、日常生活の中で、もっとからだを動かすことが肝心です。
歩くことも立派な運動です
あなたが毎日どれくらいからだを動かしているか、考えてみましょう。具体的に調べるには、歩数計(万歩計)を付けてみるのが便利です。現在の日本人では、会社員(事務職)や主婦で2000~5000歩、外交員などからだを動かす仕事に従事している人で5000~10000歩程度です。
できるだけ、毎日10000歩程度あるくようにしましょう。そのためには、まず、なるべく自転車は使わないことです。通勤や買い物は歩いて行きましょう。電車やバスでは、行き帰りに1駅分歩きましょう。3階ぐらいなら、エレベーターやエスカレーターは使わずに、階段を上がりましょう。
歩くことに疲れたら、次に、ラジオ体操・サイクリング・水泳・テニス・ジョギングなど、自分に合った運動を、初めは軽く、しかし根気よく、毎日か、少なくとも週に3回は続けてください。急に激しい運動を始めたり、月に1回、思い出したように無理な運動をするのは危険です。
糖尿病の薬物療法
食事療法と運動療法を続けても、十分に血糖値が下がらないときには、これらに加えて、薬物療法が必要です。
薬物療法には、経口血糖降下剤の内服療法とインスリンの注射療法とがあります。
薬の処方は、医師でなければできません。薬には副作用はつきものですから、決して素人療法をしてはいけません。医師の処方と経過観察のもとで、根気よく続けてください。そのためには、長く付き合える、信頼できる医師を見つけることも、糖尿病の治療にとって大切な要素です。